残業代の未払い問題は、企業にとって見過ごすことのできないリスクです。
2010年5月12日、東京地裁で以下の判決が下されました。
(日本経済新聞記事より一部抜粋)
大阪市にある大手旅行代理店が「事業場外みなし労働制」の適用を理由に残業代を支給しなかったとして、派遣添乗員が未払い分に付加金を上乗せした計約110万円の支払いを求めた訴訟の判決で、東京地裁は、請求を全面的に認めた。
東京地裁は「会社は派遣添乗員にマニュアルで業務を詳細に指示してツアーを管理し、モーニングコールで遅刻を防ぐ措置なども講じており、労働時間は把握可能」と指摘、制度の適用条件を満たしていないと結論付けた。
その上で「派遣添乗員には制度が適用されないとする労働基準監督署の指導にも従わず、過去の割増賃金を支払う姿勢がない」と会社を非難。労基法の規定に基づき、悪質なケースに当たるとして未払い分約56万円と同額の付加金も認定した。
判決によると、会社は2007年3月〜08年1月、事業場外みなし労働制の適用を理由に残業代を支払わなかった。
【解 説】
まず、「事業場外みなし労働制」とは、どのようなものなのか、そしてどういう場合に適用されるのかが
ポイントです。
労働基準法では、原則として1日8時間の法定労働時間を定めています。
ただし、労働者が労働時間の全部又は一部を事業場外で労働し、どれくらいの時間働いたかの把握が困難な場合がありますが、その時に、「原則として所定労働時間労働したものとみなす」というものがみなし労働時間制です。つまり、実際に働いた時間にかかわらず、就業規則等において定められた時間(所定労働時間)を労働時間として算定するというものです。
【「事業場外みなし労働制」のポイント】
会社としては、「外出している社員がどこで何をやっているか分からない、働いていたかどうかも分からない時間に、自己申告に応じて残業代を支払うわけにはいかない」という事情は当然あり、その意味では是非取り入れておきたい制度ではあります。
ただし、この制度が適用されるための条件は、あくまでも「会社の監視が行き届かないこと」となっています。
今回の事件は「会社側で労働時間の把握ができる要素が揃っていた」ため、証拠に応じた残業代支払の判決が下されました。
また、現代では携帯電話により「会社の指揮命令が、どこにいても可能」となっていることから、このみなし労働制が否認されるケースが多くなっています。
事業場外で労働する場合、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合はみなし労働制の対象とはならない」という通達も出ています。(労働省通達昭和63.1.1基発第1号)
通信技術が発達した現代、企業としては以前のようにただみなし労働制の規則を定めるだけでは労働時間の問題の解決にはならず、「実態で判断される」ということを念頭においておく必要があります。
チーフ労務コンサルタント
中山 伸雄
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