第1回目のコラムで、旅行会社添乗員の「事業場外みなし労働時間制」が認められず、残業代支払判決(旅行会社に対して、残業代支払と休日労働割増賃金不払い分の支払い命令)が下されたニュースをお伝えしました。
ところが、被告(会社側)はそれを不服とし、異議を申し立て本訴に移行したのですが、その結果、「みなし労働」については、「労働時間を算定しがたい」として会社側の主張を事実上容認し、前回、同じ東京地裁で出された「みなし労働は適用できない」とする判決(国内ツアーの残業代支払い請求訴訟)と矛盾する内容となりました。
以下、記事の一部を抜粋したものです。
(「週刊金曜日」より一部抜粋)
海外ツアーの旅行添乗員が「事業場外みなし労働」の是非をめぐり残業代の支払いを求めていた労働審判異議訴訟の判決が二日、東京地裁(田中一隆裁判官)であり、田中裁判官は被告の阪急トラベルサポートに対して残業代不払い分と休日労働割り増し賃金不払い分の支払いを命じた。
しかし「みなし労働」については、「労働時間を算定しがたい」として被告主張を事実上容認。5月11日に同じ東京地裁で出された「みなし労働は適用できない」とする判決(国内ツアーの残業代支払い請求訴訟)と矛盾する内容となった。
労働審判では2008年7月18日、「会社が主張する事業場外みなし労働は適用できないため残業代を
支払うべき」とする審判が出ており、それを不服とした阪急トラベルサポートが異議を申し立て本訴に
移行していた。
東京東部労組の菅野存委員長は「海外ツアーにおいても使用者からの指揮命令と時間管理は徹底しており、実態として労働時間を把握できる。裁判官自身が労働時間を算定し、不払い残業代の支払いを命じておきながら、みなし労働の適用を認めるのはおかしい」として、控訴する方針だ。
一方、阪急トラベルサポート本社・総務課では「添乗業務について一一時間のみなし労働時間制の適用を認められた点は妥当であると考える。判決文を精査し、今後の方針を検討する」とコメントしている。
【解説】
今回の裁判のポイントは、以前に、旅行会社添乗員の「事業場外みなし労働時間制」が認められず、残業代支払判決にもかかわらず、今回は「みなし労働」については、「労働時間を算定しがたい」として会社側の主張を容認、つまり残業代の支払は不要である、という矛盾した2つの判決をどう捉えるかです。 事業場外労働制は、「事業場外の労働に対して、会社が労働時間の把握をするのが困難である場合」に、原則として所定労働時間労働したものとみなす制度です。
前回の裁判では、添乗員については携帯電話などにより連絡が取れる状態にあることから、会社として労働時間の把握をすることは可能であったことが「事業場外労働」として認められないこととなりました。
それが今回は一転し、「事業場外労働」が認められることとなったのです。
認められれば、従業員側としては、「1日8時間を超えて労働していた」と主張しても、原則として所定労働時間労働していたものとみなされるため、残業代は発生しないこととなります。
これらのいきさつを見た場合、事業所として注意しなければならないポイントは、 「就業規則で「事業場外労働」を定めていたとしても、外部と連絡が取れる状態にある等、実際に会社が労働時間の管理をできる場合は認められず、時間外労働に対しては残業代の支払義務が生じる」ということです。
なお、行政通達(昭和63年1月1日・基発1号)では、労働時間が算定可能なケースとして、以下の3つを挙げています。
(1)何人かのグループで事業場外労働に従事し、そのメンバーの中に労働時間管理をする者がいる場合
(2)事業場外で業務に従事する者が、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
(3)事業場で、訪問先や帰社時刻等の業務の具体的指示を受けた後、事業場外でこの指示通りに業務に従事し、事業場に戻る場合
また、事業場外労働が認められるか否かについて争いが生じた場合は、最終的には司法の判断に委ねられることとなります。
昨今、携帯電話の普及に伴い遠隔地や外回りをしていても指揮命令が容易にできる時代になってきたため、事業場外労働が認められづらい傾向にあります。事業場外労働を導入する際は、みなし労働時間を実際の業務に合わせた時間に設定することや、法定労働時間を超えるみなし労働時間を設定するのであれば、出退勤時間、休憩時間をしっかり記録する等の管理を行い、時間外労働が発生するのであれば固定残業代による労働契約を締結する等、トラブルにならないよう運用には十分な注意が必要な時代になってきています。
チーフ労務コンサルタント
中山 伸雄 |