東京地裁 平成26年11月4日 株式会社サン・チャレンジ事件
近年、長時間労働や職場でのいじめ、パワハラ・セクハラなど仕事に関係するストレスは多様化しており、メンタルヘルス不調による精神障害は増加の一途を辿っています。
それを受けて、従業員に対する企業側の責任もより重いものが求められるようになってきている中、恒常的な長時間労働や上司によるいじめ、パワハラが横行しているにもかかわらず、何の対策も講じなかったとして、会社と社長個人、上司の3者に対しての責任が問われた事件をご紹介します。
平成22年11月、飲食店チェーンを経営する株式会社サン・チャレンジの「ステーキのくいしんぼ渋谷店」の元店長の自殺が、長時間労働と社会通念上相当と認められる限度を明らかに超える暴言や嫌がらせ、プライベートへの干渉などのいじめ、パワハラが原因で発症したうつ病によるものとし、裁判所は、会社の安全配慮義務違反と使用者責任、上司の不法行為責任、社長個人に取締役としての任務懈怠に関する損害賠償責任を認め、遺族に対し約5790万円の支払いを命じました。
この事件における労務管理上の問題点としては、大きく次の2点が考えられます。
@元店長の長時間労働が、平成20年2月ごろから自殺する平成22年11月まで、恒常的に1日12時間30分以上にわたり、さらに平成22年4月から同年11月までの7か月間においては、休日が2日間しかなく、毎月360時間を超える時間外労働が行われていたこと
A会社においては、業績向上を目指す余り、社員の長時間労働や上司のパワハラ等を防止するための適切な労務管理体制を何ら執っていなかったこと
上記@について、この事件において渋谷労働基準監督署長は、元店長の自殺を業務上のものと認定し、総額2000万円の遺族補償一時金および葬祭料を支給しています。
判決は、上司について「許される行為ではない」と不法行為による賠償責任を認め、また、上司によるいじめやパワハラ等を防止するための適切な労務管理ができる体制をなんら執っていなかったと断じた上で、社長は、これらの事実を認識しておきながら、何ら有効な対策を採らなかったのであるから、「故意又は重大な過失により元店長に損害を生じさせたものとして、会社法429条1項による損害賠償責任を負う」とし、元店長の過失相殺も認めない被告会社の全面敗訴となりました。
この事件においての特筆すべきポイントは、裁判長は、「長時間労働やパワハラが自殺につながったもので、ほかの原因は認められない」とし、自殺した本人にも責任があった場合に賠償額を減額する過失相殺をせず、会社側の責任を全面的に認めた異例の判決内容です。この判例を機に、同種の裁判において「賠償額の過失相殺を安易に認めない」という流れが強まる可能性もあり、企業にとっては、より一層の労務管理が求められることとなりそうです。
会社法429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
1項 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。 |