過重な時間外労働による過労死のニュースが紙面に頻繁に取り立たされる昨今、よく人事担当者から、「一体どれくらい時間外労働が発生したらまずいの??」という質問を受けます。
実は、会社経営していく上で時間外労働を含めた「労働時間管理」は絶対に無視できない極めて重要なポイントになります。
「ウチみたいな小さい会社は法律なんて守っていられないよ!」なんて声も耳にします。社長のお気持ちは、とてもよく分かります。しかし、労働時間の問題は企業規模を問われません。近年、労働基準監督署や裁判所では時間外労働の問題を企業の安全配慮義務という観点から厳しく判断する傾向になっております。今回はまさにその安全配慮義務違反が問われてしまった事例を紹介したいと思います。
これは、大手居酒屋チェーン店で、過労死訴訟により賠償命令の判決が下されたニュースです。
07年8月に突然死した飲食店チェーン「日本海庄や」従業員(当時24歳)の両親が、過重な時間外労働が原因だとして、経営する大手チェーン居酒屋店と同社社長ら役員4人に約1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、京都地裁であった。
裁判長は同社の安全配慮義務違反を認め、連帯して約7860万円を支払うよう命じた。
ここで労務管理を考える上で考えなければならないポイントは、主に以下の3点です。
1、月の平均時間外労働はどれくらいあったのか?
2、月の時間外労働はどのくらいまでが許容範囲なのか?
3、残業代の支払は適正に行われていたか?
実態と照らし合わせながら、一つずつ検証していきます。
1について
この事件では、「午前8時半から午後11時まで働き、死亡前4カ月間の月平均時間外労働は112時間に上っていた」そうです。
1ヶ月に25日出勤していたとすると、1日平均時間外労働は4.5時間程度です。
これだけの長時間労働は、やはり過重労働による業務起因性が認められると考えられます。
2について
月平均時間外労働における過労死の認定基準は、直前1カ月で100時間超または直近2〜6カ月間の月平均時間外労働が「80時間」とされています。(法定労働時間は、原則として1週40時間です。)
同じく25日出勤だとすると、1日平均3.2時間です。
この時間を超える時間外労働が常態化している場合は、安全配慮義務の観点から会社が責任を問われることが予想されます。
3について
同社は基本給に時間外労働80時間分を組み込むシステムを採用していたとのことです。つまり、80時間までは残業代が支払われない雇用契約をとっていました。
「基本給に残業代を含める」という賃金管理の方法は、それだけで即残業代リスクを減らす効果を期待できるものではりません。また、80時間の残業代相当額を基本給に含めるという制度も常識的に考えてどうかと思います。
このような経緯を受けて、今回、裁判長は「到底、労働者の生命・健康に配慮しているとは言えない」と厳しく指摘しました。なお、基本給とは別に毎月一定の残業時間数に応じて支給する固定残業代の導入を考える場合、1ヵ月の残業時間は、時間外労働の限度に関する基準(平成10.12.28労働省告示154号)にある月45時間程度に抑えておきたいところです。
会社にとって、杜撰な労働時間管理に起因するリスクは、日増しにその厳しさを増しています。そして何より、従業員の尊い命が過重労働により奪われた(と認定された)という重大な事実があります。人が企業を支えている以上、過重労働は企業自身のためにも避けるべきであり、また、「適正な労働時間管理」こそ、これからの労務管理で最も重要なこととなります。
チーフ労務コンサルタント
中山 伸雄 |